「事件です!!」
突然のスコールの鬱陶しさをかき消すような爽やかなバラの空気と、その声。
ジェイさんだ。
なんだろう、この心地よさと幸福感。ジェイさんが署にやってくることを私は心の隅どこかでいつも期待してしまっているようだ。
「どうしました?!」
私はさっと振り向いた。胸が踊る。
今日は水曜日。一番気持ちが下がる日だが、私の心は一気に上がりきる。警察官になって良かった。
振り向くとジェイさん。
相変わらず足が長い。
「Kさんが、Kさんがいたんです!」
「え?!あの整体師Kさんですか?」
「はい、そうです。そのKさん。僕実は、名前も間違えてて、実際にはKさんじゃなくて、Kさんだったのです!」
「それはなんと!でもご本人だったんですね?」
「はい、KさんじゃなくてKさんだけど、アルファベットはそのままです。この前はシフトが外れてただけだったそうで!今日行ったら、いたんですKさん!」
それはなんと!!店舗移動したのではなく、単にお休みだったのか!!!!
これは何かある・・・・。未遂だったのか?いや、何かある。まだある。
誰もが想像しないできない、深い何かが・・。
「でも、本当に良かった。20回分のチケットが無駄にならなくて。もう、ナビさんほんとお騒がせなんだから。3ヶ月で総入れ替え、なんて言うから。僕はてっきり移動したんだと思い込んでしまった」
「逮捕案件ですね、そのナビさん」
「まったくです。でも今回は被害届、僕出す気は無いんですけど」
え???被害届を出さない????出さない!?
「でもジェイさん!逮捕案件ですよ?」
「いいんです、Kさんが移動してないことがわかっただけで。僕はそれでいいんです」
美しい・・・。この人の心は一体どこまで美しいのだろう・・。
それはそう澄み切った湖のようだ。そよ風がその水面を流れ、光のプリズムが弾けてる。
優しい空気が私の頬をくすぐるようにすぎてゆくような。
この時の私の感じた感動と不安は、その後に日本中の涙を誘うことになる。
この時一体誰が想像できたであろうか。
整体師Kさん突然移動未遂事件
続く