第1章

「絶対に何かあると思うんです。こんなこと、聞いたことありますか?」

興奮気味に話すイケメン料理研究家 J.ノリツグ パベル ホルスト 29歳。付き合う男は20代。

「いえ、私も知らないです」

時は週末、日曜日。昼間というのに寒さ厳しい外の冷気が警察署内に流れ込み、まだ冷ややかな重たい空気が漂う午前11時。

興奮冷めやらぬ様子で半腰で座るJ氏。ツイードのコートがよく似合う。

「何か、飲みますか?」

「スターバックスラテ、ヴェンティ、シングルショット、ローファットミルクのデカフェで」

「それはないです、すいません」

「ないなら聞かないでください。警察が警察に捕まりますよ」

不安なのだろう。落ち着かない様子だ。

「あまおうですよ?博多の。1パック1280円もしたのに」

「そんなにするんですか?」

「税込で1300円以上です。2パック買ったんです、確かに。それなのに、朝になったら無くなっている。どこ探してもないんです」

おかしい・・・。博多のあまおうが、一体どこに?

まさか・・・・。

東京お惣菜惨殺事件が脳裏をよぎる。

あの悪夢が、まさか再び?

いやそんなことはありえない。

「アシスタントさんはなんと?」

「自分は食べてないと。絶対食べてない、と言うんです」

「そうですか・・・」

「でも、少し気になることがあって」

「なんですか?」

「女子力高いそのアシスタントは以前、僕にこう聞いたんです。イチゴは、ビタミンC豊富ですか?って」

「なんとお答えに?」

「僕は・・・・・その時つい、言ってしまったんです」

「なんと?」

「イチゴはビタミンC爆弾だよ、って」

!!!!!

まさか・・・。

ビタミンC爆弾・・・・。爆弾・・・。これは何か臭う。これは何か臭う。あのアシスタントが、それを認識していたのか!

東京・博多のあまおう誘拐事件。

あまおうは、生きているのかそれともまさか!

私のメモする手が震える。爆弾という文字がうまく書けないほどに。

「刑事さん、僕のあまおう2パック、あの赤い赤いあまおうたちを、絶対に見つけてください」

子供のようにピュアな眼差して私をまっすぐ見つめるJ氏。

日本中が驚愕し、涙した東京・博多のあまおう誘拐事件。ある寒い冬の朝、それはこうして始まった。

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