事件発生

「最近、すぐになくなるんです」

外は快晴。9月頭らしからぬこの天気。風に流され雲ひとつ見当たらない気持ちのいい空。気温は20度。

部屋のエアコンを切るべきかどうか悩んでいたところにその事件は飛び込んできた。

「絶対におかしい。絶対そこにあったんです」

強い口調で興奮気味に話すのは料理研究家のJ.ノリツグ パベル ホルスト氏 29歳。

料理研究家にしてはなかなかのイケメンである。

「今日なくなったものは、作り置きしておいたものだけですか?」

「そうです。僕は昨日3種類ほど作りおいたので間違いありません」

「昨日の夜まではあったのですか?」

「ありました。寝る前に冷蔵庫を開けて、僕のkami高麗を飲むための水を取り出したので覚えてます」

「kami高麗?」

「僕の最強サプリメントで、キングオブサプリです。ご存知ないので?」

「いや、勉強不足ですいません」

「反省してください。kami高麗を知らないなんて、警察が警察に捕まりますよ」

「すいません」

ローズの香りだろうか?J氏から微かに香るローズの香りのせいだろうか。J氏のきつい口調すらどこか心地よさを覚える。窓越しに当たる日差しも優しい。

「じゃあ、犯行時間は昨日の夜から今朝の8時まで、と言うことですね。夜の正確な時間は?」

「2時頃です、深夜」

「その間に、誰か来ましたか?」

「いえ、誰も。一緒に住んでるうちのアシスタントだけです」

「アシスタントさんは何か見てますか?」

「知らないって。誰も来てないし、自分は食べてないと」

「なるほど」

奇妙な事件である。誰もいないのに、冷蔵庫の作り置きの惣菜だけがごっそりとなくなっているなんて。犯人はどうやって冷蔵庫にたどり着いたのか、また惣菜を奪った理由はなんなのか。そしてその惣菜は今どこに?

謎が深まって来た。

料理研究家のお手製の惣菜がなくなった、となるとこれはマスコミの絶好のネタになってしまう。世間が騒ぐであることは火を見るより明らか。警察の威信にかけてもここは犯人逮捕、事件の早期解決が望まれるところだ。

「最近、とおっしゃってましたけど、いつ頃から始まったので?」

「ちょうど1ヶ月くらい前からだと思います。新しいレシピ開発のためいくつか試作することが最近多くて。それで結構作り置きが増えたのですが、そのあたりから突然」

1ヶ月…….。

これは何かある。深い深い、何か大事件の匂い。単なる窃盗?いや誘拐?それとも虐殺・・・。

私のこの予感は、見事に的中し、のちに日本中を震撼させる大事件へと発展したことは、世間の記憶に新しいであろう。

東京お惣菜虐殺事件。

犯人はまさかのまさかだったのだ。

その動機と熾烈な犯行その狂気に、日本中が震え上がった。

この物語は、穏やかな風が吹き抜ける気持ちの良い9月の空の下から始まった。

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